撮影写真より


滋賀県長浜市の旧国道8号線沿い、JR田村駅に近い湖国バス田村バス停にくっつけてあった田村駅の時刻表…なのだが、明らかに今と違う。そもそも「JR西日本」というシールが上から貼ってあることで分かる通り、これは国鉄の頃の時刻表。シールを貼った上で使っていたということは、大体国鉄の民営化前後くらいだろうか。
米原方面の時刻表だと分かるが、行き先は全て米原、便数は今よりも大幅に少ない。間隔も不規則で、30分間隔もあれば90分も空く便もある。この地方では通勤ラッシュなんて概念もまだなかったので、一日中そんな不規則ダイヤが続いていた。この当時といえば国鉄なんて長距離移動の際に利用するものであり、そこまでの便数は要らなかった。当時の短距離の移動といえば専らバスであり、このバス停を経由していた米原〜長浜〜木之本の路線も当時は1時間に数便と、国鉄とは比較にならない頻度だった。
しかし国鉄からJRとなった後は短距離輸送にシフトし始め、特にこの地域では長浜への新快速乗り入れが大きい。観光客の呼び込みは当然のことながら、長浜市の人口まで増えたという歴史的な出来事であり、これを契機に形勢が逆転。普通列車の大部分は新快速が占めるようになり、もはやこの地方は新快速抜きでは語れなくなった。現在は大半の時間帯で30分間隔、更に平日の早朝と深夜の米原方面は5〜6便と、かつての面影はどこにもない。米原方面行きは全列車米原止まりだったのが、今や新快速は遙か遠くの姫路まで直通するようになった。長浜方面行きは民営化後も長浜止まりが多かったが、のちに長浜から更に北の敦賀まで延伸、短距離輸送もしつつかつてを偲ばせる長距離輸送も兼ねるようになった。一方のバスは短距離の客をJRの他に車にも取られ、みるみるうちにしぼんでいった。先述の米原〜長浜〜木之本の路線は、全線がJRと並走+走行ルートが全区間国道、という昔の主要バス路線の典型であり、今では全線廃止されてもおかしくないが、奇跡的に現在でも「米原木之本線」として残っている。だが、国道が県道に格下げされている米原〜長浜間は2〜3時間に1便と凋落ぶりが激しい(長浜〜木之本は現在も1時間に1便を確保)。また支線は殆ど廃止になっており、乗車には登録と予約が要るデマンドタクシーになった、或いはコミュニティバス・タクシーにすら代替されなかった区間も多い。
田舎にはこうした忘れ去られた交通の遺構が色々残っている。…というかここは旧国道沿いとはいえ、この面が車道側になっているので、忘れ去られる以前に思いっきり目立つ。敢えて残しているのだろうか。